近谷純子 2019年8月執筆
2019年4月、長野県の佐久穂町に開校したイエナプランスクール、大日向小学校(学校法人茂来学園)。縁あって、東京で生まれ育った6年生の息子、4年生の娘が入学することに。
このタイミングで、きょうだいふたりがそろって「小学生」だったのは、ある意味奇跡だった。
来年度からは、基本的に小学1年生のみの募集と聞いている(※なお、定員に空きがある学年は募集の予定あり)。
今年度は、1年生から6年生まで、6学年全ての生徒、70人が新入生。
それは想像を超える、ゼロスタートの日々の始まりだった。
(写真提供:筆者)
開校後間もない時期の下校時。池のまわりにわいわいと。
子ども、教職員、スタッフ、それに保護者。もしかしたら、突然カタカナの私立学校ができて(校名は大日向小学校だけど)、面喰らったかもしれない地元住民の人たちも。みんなみんな、新しい環境で必死だった。
これから書くのは、そんな一学期を、ひとりの保護者として振り返る、あくまで個人的な備忘録。新規校スタートの様子の一端が伝わればと思います。
イエナプランとは?
4月27日「大日向小学校の開校を祝う会」
4月10日水曜日、降りしきる雪の中の入学式だった。それから半月が経ち、その間学校に行ったのは2日と2週間。
そのタイミングで、地域の方々、また開校に携わった関係者の皆さまへのお披露目の意味で(おそらく)、「大日向小学校の開校を祝う会」が開かれた。
いまもって、一学期最大の驚きはこのときにあったと思う。
(写真提供:佐久穂町地域おこし協力隊 山上雅子)
学校紹介劇
会が始まり、子どもたちが学校紹介をした。
下学年(1年生から3年生)は、学校の好きなところをそれぞれが絵に書いて、ひと言ずつ言葉を添えたり。また、ある子の自作の詞(これも素敵だった!)に、歌をつけて歌ったり。
そして、わが子たちがいる上学年(4年生から6年生、合わせて20人ほど)は、劇をするグループと、「イエナプランスクールとは?」というプレゼンをするグループの2つに分かれていた。
ちなみに、先生からは「こんど、開校を祝う会があります。来てくれる方々に、学校のことがわかる何かをお見せしたいのだけど」という話があり、あとは子どもたちが決め、先生たちは口をはさまなかったとのこと。
2週間、先生方はよく我慢強く見守ってくださったなと思う。
迎えた開校を祝う会当日の劇。子どもたちの手による脚本で(聞いたところでは、4年生と6年生の子が書いたとのこと)、「前の学校では~~」、「今の学校では~~」と授業光景や給食時間などを比較して、場面ごとに演じていた。
1本のマイクをあっちに渡し、こっちに渡し、場面によっては脚本を手にセリフを棒読みし、せっかくの大道具は端っこに置きすぎてほとんど見えないなど、ハチャメチャだったけれど。
でもたった2週間で、初めて出会った子どもたちで、前年度の踏襲もない、開校を祝う会が何かなんて何もわからない、その状況のなかで、これだけのことができるんだと驚いた。
劇をやる。
メンバーが集まる。
じゃあ自分が脚本書くわ。
生徒の役は誰々がやるね。
○○さん、先生役やって。
オレは絶対に舞台には出ない、出るなら休む。けど、大道具作る。
なに? 授業風景の劇? じゃあ黒板作ろう。
ダンボール集めて貼り合わせたらテープのとこがぐちゃぐちゃ……。
舞台の上では、
マイクが1本しかない。途中から、マイクありとなしの子になんとか分かれた。
キーンコーンカーンコーン、の効果音を少したどたどしく、でもピアノで弾く子がいた。
机を運び込むタイミングが今ってどうなんだ?!
舞台袖では、
幕を引く係だったのに、おまえはやるなと言われた子がいて、それをかばった子がいた。
10数人の4年生から6年生。いろんなことが起きていたらしい。その舞台裏こそが、ドラマだった。
地域の人がいて、町長さんがいて、オランダからのお客様がいて、学校建設に関わった人たちがいて、マスコミの人がいて。
そのたくさんの人の前で、子どもって、これだけハチャメチャにできるんだ……
先生たちも、それをオッケーできるんだ……
じゃあ、私はこれまで、子どもたちのどれだけの力と、感情とを、さえぎってきたんだろう。
ハチャメチャなドタバタ劇を思い返すたび、それよりもっと過去、自分は子どものハチャメチャドタバタを未然に蓋することはなかったかと、胸が痛くなる。
子どもたちに拍手。そして当日ですら、舞台下で腕を組んで、口を出さなかった先生にも拍手。
プレゼンテーション
その後、もう一つの発表。
「イエナプランスクール・大日向小学校について」プロジェクトのプレゼン。
名を連ねたのは、娘を含む4年生の女の子数名。
舞台に立ってプレゼンしたのはそのうちのふたり。
その内容の深さ、プレゼンのレベルの高さに、ただただ驚愕。
当日まで、娘もいっしょに校内の写真を撮りに行ったり、食堂で話を聞いたり、文章を考えたり、と楽しそうだった。で、当日の発表に、それらは一切使われていなかった!!
でも、それがどう、じゃなくて、プレゼンをしたふたりは放課後までほんとうに真剣に取り組んでいて。そして、発表の最後に、この発表は、誰々と、誰々と、誰々と、やりました、というリストがあって、それを言葉にして。
あっぱれだった。
劇のどったんばったんと、プレゼンの素晴らしさ、そのどちらにも、明らかに、優劣はなかった。
これほど子どもたちの力を、その優劣のなさを、4月に目の当たりに教えてもらったのに。7月の保護者会では、このままではあまりにも子どもたちの学力が心配すぎる……と訴えてしまったり。
それに対し、「はい。正直言って、手を離しすぎました」という先生の言葉があって。
しかし、これを書いているいま、手を離してくれていることにこそ、感謝すべきなのかもしれないと思っている。