<藤川大祐先生講演②:「あたらしい教育」とリフレクション>
話し手:藤川大祐(千葉大学教育学部教授)
社会で活躍するための能力「リフレクション」
世界的には、やっぱりeducationの語源にしろ、OECDの議論にしろ、決まった形で子供を大人にしようなんて思ってないんです。その人その人の個性が大事で、持っている能力を引き出しながら社会の中で活躍できるようになってもらおうと思っていて、画一的にしようとは思ってません。
OECDの議論のポイントは、コンピテンシーという概念です。コンピテンシーは日本語では訳しにくくて、国の説明でも業績優秀者の行動特性と言っていますが、要は社会で活躍する人の特徴を示してるんですね。
(資料2 作成:藤川大祐)
これをこの図(資料2)でだいたい整理しているんです。
このコンピテンシーの核心は「リフレクティブ、思慮深さ」なんです。リフレクションが形容詞になったのがリフレクティブです。リフレクションとは「反射」の意味です。鏡に光が反射するのがリフレクション。それをさらに転じて内省と言ったりすることもあります。要は、鏡で自分を見て自分を考えるように、自分について深く考えることをリフレクションと言います。いろんな人と関わって、いろんな所に身を置いて自分についてよく考えることが、このリフレクティブの核心です。これが社会で活躍する人の特性として大きい、という結論を出したのがOECDの分析です。つまりいろんな人と関わって、自分はこういう場に行くことができて、こういう力があって、こういう場だとこういう独自性があるとか。そういう風にいろんな場で自分を知っているということです。
OECDの3つのキー・コンピテンシー
ではこのスライドにある3つのキー・コンピテンシーを確認して欲しいんですが、まず①「異質な集団で交流する」。いろんな人がいる社会ですから、その中で「A.他の人とうまく関わる」「B.協働する」これらは普遍的ですよね。だけど「C.紛争を処理し解決する」もあって。これは日本の学校的にはないですよね。ただ国際的に見れば、紛争はあります。紛争って何かっていうと、対立ですよね。そういうものを乗り越えていく力を持っている人が社会で活躍できる人とOECDは言っているわけです。
つまり、空気を読んで調子を合わせる、みたいなのはだめってことです。そういうのではなくて、違いはあって当たり前。その上で違いを乗り越えて問題を解決したり一緒に協力ができたりする。そういう力がある人が社会で活躍する人だって言ってます。空気を読む人も、ある部分では活躍できると思いますが、OECDはそれを否定していると捉えてることができます。
次に②「自律的に活動する」とありますが、少し注意して見て欲しいんです。「Aは大きな展望の中で活動する」、Bは「人生計画や個人プロジェクトを設定して実行する」、これはキャリア教育っぽいですね。Cは「自らの権利・理解・限界・ニーズを表明する」これが大事です。
ハンディキャップを持っているとか、苦手なことがあるとか、嫌なことがあることは当然だと思います。そういう人がきちんと「自分にはこういう権利がありますよ」、「こういう利害関係がありますよ」、「こういう限界があって、こういうことが必要ですよ」ということを主張できて、それを周りに認めてもらえるようにする。そういう風に主張できる社会にしないといけないんです。
これは、日本の学校教育では違和感がありますよね。日本の学校教育は思いやりや配慮は言いますけど「権利を主張する」っていうと「そんなことしなくていいんじゃないか」ってなりやすい。少なくともカリキュラムとしては、むしろ自分の権利を主張してはいけないということを学ばせてしまっていると思いますが、それではこの先の社会やっていけないってことだと思います。
で、右下です。学力と言い換えられるかもしれませんが、③「相互作用的に道具を用いる」は、つまり言葉や情報、技術を使えるってことです。相互作用的にっていうのはやりとりができるってことですね。読めるだけじゃなくて発信も受信もできるってことです。メディアリテラシーとか情報リテラシーと考えていいと思います。
昔の教育では、教わることを丁寧に聞いて理解していればよかったんです。けれども今は当然ながら自分の意見を発信する、自分で調べたことを発信する、その為にもネットなどの技術をちゃんと使うってことが必要ってことですよね。ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョンって言ってもいいですけど、社会にはいろんな人がいて、それを社会が排除しない、そういう社会を担える人が大事なんだっていうことです。
メタ認知っていうのは考えていることについて考えることで、自分が何考えてるかを自分で考えながら生きていく。メディアリテラシーそのままですね。それからキャリア教育、人権学習も大事だと。今日本の学校でもやっていますが、かなり方向性は違う。OECDの議論をしているのを文科省は知りながら、割と日本ぽくアレンジして学習指導要領を作っているということになります。この辺りをどう踏まえるかがこれからの開発なりを考えるのに大事だと思います。
非認知能力は幼児のうちに伸ばす
もう一つ、最近話題になっている能力についてちょっとだけ言っておきます。非認知能力っていうのがあって、幼児のうちからこういうことを伸ばしておくと、社会で活躍しやすいですよって経済学者たちが議論してるんです。教育経済学ってジャンルがありまして。好奇心とか協調性とか自己主張とか、こういうのはもちろん後からでも身につくのですが、幼児のうちに割と伸びやすいところなんですね。逆にいうと幼児のうちに好奇心などを抑えすぎてしまうと、後から伸ばすのが大変だったりしますね。
今、幼稚園教育ではこういった力をちゃんと伸ばせるといいんじゃないかってよく言われてます。今までのような話を踏まえると、本来教育はイメージが変わっていかなきゃいけなくて、教育って言葉だけじゃなくて教師っていうものも、今のこの文脈には合わなくなってきてますよね。