コミュニケーションを取りながらゲームをするのは、人間力を養うことにつながる ―10年間の不登校を経て高校生で起業 小幡和輝さん①

2020年4月24日

今年の初春。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、期せずして子どもたちは長い休みに突入した。当初は楽観的だった自粛ムードも、ある時期を過ぎてからは徐々に厳戒態勢へ。日本初の緊急事態宣言が発令され、できるだけ家から出ないようにする、がんじがらめの生活へと変化している。

体は元気。でも外で遊べない……となると、ゲームに手が伸びるのも仕方のないこと。「ゲームはあまりさせたくない」と思っていた親も、「子どもが家にいてくれるなら大目に見よう」と、気持ちが変化しているかもしれない。

「ちょっと前までは、『長めの春休みだ!』と喜んでいた子どもたちにも、変化は生まれています。新学期になっても学校は始まらず、緊急事態宣言が出されて様子が変わってきた。ここ数週間の動きには、大人も戸惑っていますが、それ以上に子どもたちも「なんだか怖い」という漠然とした不安を持っているように感じますね」

そう語るのは小幡和輝さん。日本初のゲームのオンライン家庭教師サービス「ゲムトレ」の代表だ。「ゲムトレ」は、2019年10月に開始されたばかりでありながら、日本アントレプレナー大賞エンタメ部門グランプリを受賞するほど注目を集め、半年ですでに累計トレーニング回数が1500回を超えているという。

小幡和輝(おばたかずき)さん

1994年、和歌山県生まれ。
約10年間の不登校を経験したのち、高校3年で起業し、ゲームを習うことができるオンライン家庭教師サービス「ゲムトレ」を開始。
そのほかさまざまなプロジェクトを立ち上げる。
1億円規模の地方創生ファンドと47都道府県をつなぐ地方創生会議を主催。2016年、GlobalShapers(ダボス会議が認定する世界の若手リーダー)に選出。
2018年より内閣府地域活性化伝道師に任命。著書に『学校は行かなくてもいい』『ゲームは人生の役に立つ。』など。

オフィシャルブログ:https://www.obatakazuki.com/
「ゲムトレ」公式ホームページ:https://gametrainer.jp/

取材時は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、小幡さんにはビデオチャットでお話を伺いました。

休校期間が長く、時間が有り余る子が増えた

―――「ゲムトレ」とはどんなサービスなのですか。

オンラインで、ボイスチャット(複数人で通話可能なソフトウェアの総称)を利用して子どもたちにゲームを教えるサービスが「ゲムトレ」です。全国大会や世界大会に出ているほどゲームが上手で、人間性も教え方もしっかりしているトレーナーを採用し、「フォートナイト」や「スプラトゥーン」などの有名ゲームを、ボイスチャットを通じてトレーニングしているのですが、コロナウイルス感染防止のために学校が休校になった3月から、新しい生徒も続々と増えています。自宅でもやれる習い事の需要が高まっていると感じています。

―――「ゲムトレ」を利用しているのは、どんなお子さんなのですか?

普通の小中学生ですよ。その6割は不登校の子ですが、最近は不登校ではない子も増えています。

―――習い事にもいろいろありますが、ゲームの家庭教師というのはすごい着眼点だと思いました。

実は僕自身、幼稚園から不登校で、ゲームは30000時間くらいやっていました。僕にとってゲームは「人生を救ってくれた存在」なんです。勉強できないし、運動も苦手だし、学校の中で評価されることはすべて不得意で学校に行けなくなった僕ですが、不登校になってからハマったゲームのおかげで、友達がいっぱいできました。ゲームのおかげで大会にも出て入賞し、自信も持てた。そして、最初の仕事もゲームのおかげで見つけられたほどです。

ゲームに強くなるためには、頭の回転が速くないとダメなんです。ゲームでの勝ち方をきちんと学べるサービスがあってもいいなと思って。

和歌山県出身の小幡さんは、地域の魅力を発信する観光プロモーションの仕事に就いたが、そのきっかけは「信長の野望」というプレイステーションのゲームで日本の文化や歴史に興味を持てたからなのだという。

ゲームは本当に「悪者」なのか

―――一般的に、ゲームは好ましくない存在と見られがちですよね。不登校になってゲームを習う。それってどうなのかな、と思いますけれど……。

親御さんは、不登校になる理由を「ゲーム依存だから」だと思われる方も多いのですが、何百人もの不登校の子どもたちと話してきた僕にしてみると、前提がまず違う。不登校になるのは、「ゲームをやりたいから」ではなくて、社会的に満たされていないから。子どもが自分を追い込んで、どんどん落ち込んでいくよりも、いったん子どものあるがままを受け入れて、本当に好きなこと、楽しいと思えることをさせてあげるのはとてもいいと思うんです。その1つがゲームかなと。

僕が子どもだったころは遊戯王などのカードゲームが流行っていましたが、今はオンラインゲームが主流です。でも、独りぼっちでやるゲームというよりは、ボイスチャットなどで仲間とコミュニケーションを取りながらやるゲームが流行っています。何人かでチームを組み、「左から攻めろ!」「今、壁つくって!」なんてコミュニケーションを取りながら戦っていく。もちろん反復練習もあるし、勝つために考えなくてはならないこともたくさんある。瞬時にさまざまなことを判断する必要がある。想像以上にすごく頭を使うんです。教育効果もあるなと感じています。

コミュニケーションを取りながらゲームをするのは、人間力を養うことにつながる

いまはゲームを本格的に習う子って少ないので、「ゲムトレ」の生徒はクラスでゲームのうまいトップクラスに確実に入れるようになる。それってとっても重要なことだと思うんです。プロゲーマーにならなくても、クラスで一番ゲームがうまいって、その子にとって大きな自信になりますよね。

「学校に行きたくない」と言っていた子どもが、「ゲムトレ」でゲームを学ぶうちにコミュニケーション能力が身につき、学校でリーダーシップを発揮する瞬間が生まれました、と保護者から聞くこともあります。学校生活でグループになって何かをするとき、ほかのメンバーに的確な指示を出せるようになったというんです。

また、それまで不登校だったお子さんが「ゲームを習い始めてすごく明るくなって、学校に行きだしたのでゲムトレを卒業します」とおっしゃるケースもありました(笑)。サービス的には残念な流れですけれど、お子さんが自分の道を見つけられたのは喜ぶべきことだと思っています。

1人で自室にこもってゲームをするのはお勧めできませんが、人とコミュニケーションを取りながらゲームをするというのは人間力を養うことにつながるはず。親子で習っている人もいますよ。先日、親子で参加できるイベントも開催しました。親子でチームを組んでエントリー。子どもvs子どもで1本、親vs親で2本の3本勝負。ポイントは、いくら子どもが強くても親が弱ければそこで敗退してしまうこと。なので、試合の日まで子どもが親に必死にゲームを教えるんです。当日、対戦中も「お父さん違うよ、左じゃないよ、右!右!」という声がボイスチャットから聞こえてほほえましかったですよ。とっても盛り上がりました。子どもは親とゲームをしたいと思っているんじゃないかな。

取材後記

親の立場ではやはり「ゲームはあまりやらせたくない」。けれど、「囲碁も将棋もゲームという点では同じ」 「eスポーツ(ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技とすること)市場も爆発的に拡大しており、国体の文化プログラムになったり、将来のオリンピック競技候補にあがったり、賞金が億を超えるタイトルがあったりする」と聞くと、そろそろ私たちも考え方を変えなくてはいけないような気がしてくる。“STAY HOME”を余儀なくされ、親子ともに時間のある時期。子どもがどんなゲームで遊んでいるのかを知る意味でも、一緒にゲームをするのも“あり”かもしれない。

取材・文:小澤 彩/編集:下田 和

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